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大阪高等裁判所 昭和25年(う)3418号 判決

控訴人 被告人 中西淳郎

弁護人 福岡福一

検察官 折田信長関与

主文

原判決を破棄する。

本件を奈良地方裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の理由は末尾添付の弁護人福岡福一提出の控訴趣意書の通りである。

第一点について、

よつて、記録を調査するに起訴状によれば公訴事実として被告人に係る業務上横領の事実を被告人の単独犯行の趣旨に記載しているのに、その後訴因罰条変更の手続を履践しないで原判決にはこれを被告人と外一名の共同犯行と認定判示ししかも外一名とは何人を指すのか不明なることは所論の通りである。ところで、訴因とは社会的に犯罪とされる事実そのまゝではなく、これを法律的に整理し構成したものすなわち、犯罪構成要件に該当する具体的事実であることは異論がない。そして犯罪構成要件の修正形式である共同正犯従犯等もこれに含まれるものと解すべく、少くとも起訴に係る単独犯を共同正犯と認定するには訴因変更の手続を要するのであつて、殊に本件のように業務上横領罪については占有関係身分関係が重要な構成要件であるから単独犯なりや共同正犯なりやを明確にしない限り防禦方法の選択を困難ならしめ、防禦権を不当に奪うこととなるべく、訴因変更の手続の必要を痛感するのである。それゆえに原判決は訴訟手続に法令の違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があつて原判決は破棄を免れない。

よつて、その他の論旨について判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第四百条に従い主文の通り判決する。

(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)

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